獅子の如くにやってきて、
  脱兎の如くに去ってゆく

         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


ここ数年の暖冬中のそれのような、
クリスマスだけとか、大みそかだけといった短期的な寒波で収まらず。
次々に、連綿と、間断なく訪のう寒気団の襲来が一向に止まらぬがため、
毎日毎日うんざりする寒さに襲われ続けで。
そんなせいだろうか、この睦月は例年になく長かったような気さえする。

 「ですよね〜。」

使い捨てカイロを補充するペースが、今年は随分と早くってと。
赤毛の少女が肩をすくめれば、

 「いつまでも暑くて、秋物がなかなか着られなくって。
  不平たらたらだったのが嘘みたい。」

とはいえ、どんなに寒くてもミニや短パンは外せないから、
大きく譲ってレギンスかパギンスとの重ねばきで出掛けちゃってたけれどと。
金髪に青玻璃の眸をした少女が、手を休めぬまま くすすと笑い。
教科書を全部、カバンへ詰め終えると、
金具をパチンと留めて蓋をし、

 「久蔵、お待たせ……って。あららぁ。」

背後の席を振り返ったそのまま、
白い頬をほころばせてしまった七郎次。
というのも、
先日の席替えで彼女の真後ろの席になった、
やはり金髪のクラスメート、三木さんチの久蔵お嬢様が、
机の上へと腕を延べ、
その上へ伏せるようになってのくうすうと、
居眠りしかかっておいでだったから。
待ちくたびれたというほども、身支度に時間の掛かった七郎次じゃあない。
強いて言うなら、

 「今日はまた、いいお日和ですもんねぇ。」

窓の間近という特等席だったその上に、
年末からこっち大急ぎでやって来て、次々に居座りを続けた極寒だったものが。
やっとのこと その強襲が途切れてのこと、
昨日からは一気に春めいた暖かさが訪のうており。
明け方こそ寒いものの、陽が出てしまえばこっちのもの、
飛びっきりの陽だまりが出来、ほこほことそれは暖かいものだから。

 「実を言うと、授業中はアタシも危なかったったら。」
 「ましてや今日は、古文に物理にと、眠くなる授業が続きましたしね。」

そして今はといや、昼下がりといういい時間帯なので。
お弁当もほどよくこなれての、後は帰るだけという気の緩みからだろう。
紅バラさんがあっさりと沈没してしまったの、
なんてまあ微笑ましいことよと、
くすすと微笑いつつ見守っておいでの、
白百合さんとひなげしさんだったものの、

 「でもでも、暢気に構えていては時間がなくなりますよ?」
 「そうだった。…久蔵、起きて。」

お待たせてしてごめんなさいね、さあさ帰りましょうと、
小さな肩をそおと揺すると、
とろんとした眸を上げた紅バラさん。
ああもう、なんてかあいらしいのだろかと、
見ているこちらの白百合さんまでが、目許を甘くたわめたのはお約束で。
今日ばかりはお荷物なコートを、それでも手早くセーラー服の上へと羽織ると、
他にはもうクラスメートの姿もなくなっている教室、
きゃわきゃわと楽しい話題に笑いさざめきつつ、
軽やかに後にした三人娘たちだった。




       ◇◇



くどいようだが、この冬は途轍もない極寒が続いていて、
しかもそれがほんの先週の末、いやいや月曜の朝までも続いていたものが。
カレンダーが一月睦月から二月如月へと移り変わったその途端、
昨日今日と、一気に春本番をも思わせるほどのいい陽気になっており。
朝早くに来ての練習があるような生徒は、
これまで同様の身支度として重宝している厚手のコートも、

 「早く帰る日はちょっとばかり苦痛ですよね、これ。」
 「〜〜〜。(頷、頷)」

相変わらず美術部の“幽霊部員”を継続中な平八はともかく、
七郎次の率いる剣道部も、久蔵が伴奏係を務めるコーラス部も、
今日ばかりはその活動をお休みとしておいで。
というのが、週末に外部入学志望者たち対象の入試があるとのことで、
その準備へと教師陣が多数駆り出されており。
そこへ加えて、試験への公正を帰すため、
在学生たちもまた、出来るだけ居残りは厳禁とされているためで。
前以て判っていた日程だったので、
それじゃあとこちらのお嬢様がたが構えたのは。
寄り道のはしごでもなければ、各自解散でもなくの、

 「マカロンって…こないだ挑戦したアレでしょう?」

お荷物だったコートを脱ぎ捨て、
ついでにセーラー服もほいほいとの手際よく脱ぎ捨てて。
今日は持って帰る予定でもあったのでと、
都合よく持参していた学校指定の体操服。
白地に紺のラインのジャージと、下は紺地に白ラインのトレパンという、
身軽軽快ないで立ちになった三人娘が、
帰宅途中のその御々足を運んでいたのは、
毎度お馴染み“八百萬屋”の、
住居部分にあたる二階にまします平八の私室。
並々ならぬ意気込みを感じさせる格好になった彼女らだったのは、
何も…今からここいらを何キロか走ってくるからではなくっての。

  来たるバレンタインデーに向けて、
  チョコ風味の本格派お菓子をマスターするぞ!

という、
白百合さんのリクエストにお応えしてのことだったりし。

 「だって勘兵衛様ったら、今時の甘味は一通りご存知で。」

かつての辛党一辺倒だった彼はどこへ行ったやら。
前世ではどちらかといや酒を嗜むほうが得手で、
饅頭の類は胸焼けするからと、こっちへ寄越すほどだったはずが、
今世の島田警部補殿は、
饅頭やドラ焼き、菓子パンに飴にチョコにケーキまで、
甘い物もドンと来いという好みのお口になっておいでで。

 「きっとアレですね。
  張り込みでアンパンと牛乳って定番を食べ過ぎたんですよ。」
 「ヘイさん、それは相当古いって。」
 「???」
 「ほら、久蔵殿には通じてないし。」

第一、牛乳と言ったらドーナツでしょう、いいえ断然カステラです、と。
何だか話の焦点までもがズレつつある二人のお友達へ、

 「……。」
 「あ、えっと。」
 「はい、不毛な話は置いときましょうね。」

そうだったあんまり時間がないんだったとばかり、
怖いもの知らずで鳴らした頼もしいお友達を、
黙らせての引き戻した、
久蔵殿の一睨みは相変わらずの威力をお持ち。
恐ろしいのではなくて、でも、
いい加減にしなさいという無言の抗議には。
ひねりがない分、
こっちもぐうの音が出なくなるから不思議なもんで。
くどいようだが、今から走って来ますというよないで立ちも勇ましい、
美少女揃いの彼女らが向かったのはというと、
此処“八百萬屋”の店舗部分の奥向きにある大厨房。
注文が入ってから手掛ける、ちょっとした軽食などの調理は、
店舗のカウンターにある小さめのコンロとオーブンで、
ちょちょいと見事な手際で片付けてしまう五郎兵衛ではあるが、
ケーキや団子はそうは行かぬ。
朝早くから起き出して、大量のあれこれ一気に手掛ける、
まとめ焼きやまとめ煮、まとめ蒸しなどなどをこなすのが、
こちらの厨房なのであり。
お店のほうが営業中の時間帯は、
わざわざこちらまで戻ってくることは滅多にないがため。
この顔触れで何かを作ろうという舞台には打ってつけ…なワケであり。

 「こないだのって、天板にものすごく広がって失敗したんだよね。」
 「あれはメレンゲの泡立てが緩かったからですよ。」

マカロンというお菓子は、さっくりした歯ごたえが“売り”の代物。
そのさっくり感を出すため、よ〜く泡立てたメレンゲを必要とする…のだが、

 「他のケーキでは、
  あんまり泡立て過ぎると生地の密度が増してしまって。
  それを焼くと途轍もなく堅くなりますものね。」

まだまだ新米な七郎次なので、何とはなく加減しすぎたか、
比率があまりに多い粉を合わせての、仕上げの撹拌を怖がるあまり、
ついつい馴染みのいいようにと、緩めで止めてしまっての悲劇。
マカロン生地が膨らまないという事態に3度も陥ってしまい、
その折は早々に諦めたものの、

 「代替品のクッキーを、それは褒められましたvv」

胸の前にて白い拳をグッと握って。
クリスマス用にとこちらの彼女ら二人から教わった初心者用のクッキー、
お家で自分一人で焼いても成功したのと、
意気揚々、ご報告くださった七郎次お嬢様…だったけれど。

 「まさかに、
  お父様とかお母様から褒められたってんじゃないのでしょう?」
 「勿論。」
 「マドレーヌにロールケーキ、モンブランと来て。
  その次がクッキー、だったのが、
  もしかして、ちと口惜しいってワケでしょか?」
 「う……。///////」

だって、ケーキのあれこれでそこまで上達していたものが、
いきなりクッキーって初心者向けのになっただなんて。

 「好きって気持ちは変わりませんのに、
  いきなりたどたどしさが戻るとは…って。
  これって気持ちが離れちゃったせいかななんて、疑われたらどうします。」

 「……あのですね。」

あんの髭のおじさんに、
そこまでのデリカシーはないと思いますけれどと、
胸の奥ではそうと思った平八だったものの。
髪も束ねての戦闘体制は万全な、
勘兵衛様が命の金髪美少女を向こうに回し。
そんな軽はずみを言うほど外しちゃあおりませんとも ひなげしさん。
微妙に呆れてしまったものの、

 “……まあ、胸中は判らぬではなし。”

恋は盲目とはよく言ったもの。
誰か他の人が陥ってることへは、冷静に見守れる、助言もできることが。
自分の身に降りかかると、不思議なくらい判断力がゆるくなり、
そのくせ、色んなボーダーを知らず上げてもしまうから困りもの。

 「…ちなみに。義理チョコとかは用意しないんで?」

失敗したのをリベンジだと、白百合さんが意気巻くマカロンはチョコ風味。
来週末には準備もフィニッシュに掛からにゃならぬ、
チョコの祭典があまりに間近なのでとのカマかけ半分。
七郎次が譲れないとする“本命さん”も、
今のところは、その他大勢の中で頭ひとつ飛び出してるだけなお人かも知れぬと。
そんな思惑から訊いたところが、

 「義理ですか?
  う〜ん、どうしたもんでしょか。」

ウチの父がこそり期待しているらしいので、
そちらも焼こうと思ってますが。
義理チョコというのも相手がいないと意味がないですしねと。
つまりは対象なんていないと言いたげに肩をすくめた白百合さんであり。

 「そこまで勘兵衛殿一辺倒とはねぇ。」
 「あ〜、ヘイさんには言われたくないなぁ、それ。」
 「何がですよ。」
 「だってヘイさんたら、
  何を見ても聞いてもゴロさんが物差しになってませんか?」
 「う……。」

思わぬ反撃に遭ってしまい、
多少は動揺した平八だったものか、
メレンゲを泡立ててた電動ミキサーが、
ボウルの底を かりかり・がりりと咬みかかったほど。

 「だ、だったら……」
 「だって勘兵衛様って、そりゃあおステキなんだもの。」

何かしら反駁しかかってた平八の言を遮って、
そうまで言いつのった七郎次であり。

 「……よもや、夢の中では白馬に乗って現れたとか?」
 「ううん。」
 「じゃあ、籠城事件の真っ只中、飛び込んで来て助け出してくれたとか?」
 「……ちょっと違う。/////////」

ぽうと頬染め、打って変わってそのまま口を噤んだ白百合さんであり。
???と、目許を眇め、小首を傾げたひなげしさんへは。
粉の類を計量していた久蔵がいわく、

 「大方、あのタヌキが、
  籠城現場へ三河屋にでもなりすまし、
  直々に突入して来てくれたのだろうさ。」

 「な、なんかリアルじゃありませんか? その喩え。」

そうか?
こういうお膳立ては得意なのだろうし、後は独壇場だろうにと。
前世からの因縁、
直接振り回されたこととそれから、
こちらの七郎次をさんざん困らせたことででも、
島田勘兵衛には微妙な敵愾心が消えないらしき、
元は南の紅胡蝶殿。
抱え込んだボウルの底に、小憎らしい顔でも浮かぶのか、
えいえいえいと電動ミキサーを押しつけての、
頼もしいほど泡立てまくり。
こりゃあ いい出来のマカロンになりそうだわいと、
微妙にこわばった笑いようをして見せたひなげしさんだったのは、
言うまでもなかったり。


  愛を紡ぎ合う当日も、
  今日みたいな暖かいお日和になればいいですね。
  どんな過去でも笑い話に出来るよな、
  そんな大切な人への贈り物、
  飛びっきり美味しいのが出来ますようにと、
  三人三様、想いを込めて。
  メレンゲふっくら掻き立ててる、如月初旬の午後でした。





   〜Fine〜  11.02.03.


  *節分の話にしてもよかったのですが、
   やっぱ女子校生といや こっちでしょうということでvv

   NHKの趣味の番組で、
   片岡鶴太郎さんがいろんなスィーツに挑戦していた中にマカロンがありまして。
   メレンゲと粉類とを合わせるのがとにかく難しそうで、
   あんなたくさんの粉、泡を潰さずに合わせられるの?と思うよな対比の、
   『マカロナージュ』という作業を頑張っておられたのが印象的でした。




マカロン

・卵白 90g(前日準備:冷凍)

・アーモンドプードル 90g(前日準備:冷凍)
 アーモンドの粉のことで、製菓材料売り場に売ってます。
 アマンドプードルとも言います。
  ※注意:アーモンドパウダーや粉糖は
      コーンスターチの入っていないものを使ってください。
      生地がひび割れてしまうそうです。

・粉糖 160g
・特細目グラニュー糖 30g
  ※注意:これだけだとプレーンなマカロンになります。
      チョコ風味生地にしたいなら、
      アーモンドプードルを10g減らし、
      その分ココアを加えてふるって下さい。

【 下準備 】
 「卵白」を90g分用意し(大体3〜4個分位)、ジップロック等に入れて前日から冷凍。
 「アーモンドプードル」も前日から冷凍。
   ※どちらもよーく冷やしておくことで扱いやすくなるそうです。

【 作り始めます 】
  前日から冷凍しておいた「卵白」を自然解凍。
  そのまま常温で置いておけば、30分位でサクサクと簡単に崩れるようになります。
  「アーモンドプードル」、「粉糖」を一緒にふるいにかけます。
  アーモンドプードルがふるいの目に詰まってきますので、
  根気強く時間をかけてふるいましょう。
  微量に残った目の粗いアーモンドプードルは捨ててください。
  (全体量90gが欠けない程度の量)

【 メレンゲを作ります 】
 「卵白」がある程度解凍されてきたら、
  ハンドミキサー(電源切った状態)の先でそのままサクサクと上から押し崩します。
  ある程度崩れたら、ハンドミキサーの電源を入れて高速で混ぜていきます。
  ある程度メレンゲが出来てきたら、
  「特細目グラニュー糖」を3回位に分けて加え、
  ハンドミキサーでしっかり混ぜ合わせてください。
  ボールのまわりに飛び散ったメレンゲ、グラニュー糖もゴムベラで取ります。

 ・目安
  ボールをひっくり返しても落ちてこない程度。
  また、メレンゲをすくった時に、つのが少しだけお辞儀をする程度。

【 粉をあわせる 】
  しっかりとしたメレンゲが出来たら、
  そこに合わせてふるっておいた「アーモンドプードル」、「粉糖」を加えます。
  ぐるぐるとかき回さず、真上からへらを入れる感じで、
  ゴムベラでさっくりと合わせます。徐々に全部が一体になりしっとりします。
  ゴムベラの側面で、ボール内側の側面にメレンゲの泡をこすってつぶしていきます。
  つぶしすぎないよう注意して下さい。
  生地がだら〜となり、焼いた時に形が崩れたり膨らみません。
  徐々にメレンゲが滑らかになり、つやがでてきます。

 ・目安
  メレンゲに艶が出て、持ち上げた時、タラ〜とリボンの様につながって落ちるようならOK。

【 搾り出します 】
  オーブンの天板にクッキングシートを敷き、生地を搾り出し袋に入れて、
  直径 2〜3cm位に絞ります。角が残らないように、こんもりと盛るように。
  絞り終わったらすぐ焼かず、そのまま30分〜1時間くらい乾燥させます。

 ・目安
  ゴムのように膜が張って弾力が出ていればOK。
  しっかり乾燥させるほど、出来が良くなります。

【 焼きます 】
  オーブンは必ず一枚づつ下の段で焼きます。
  もう一枚の天板は上の段に入れ火の調節に使います。
  210度で2分30秒〜3分高温で焼きます。
  (オーブンによっても違うのでピエの出かたをチェック)
  ピエ(縁がレース状にはみ出す)が出てきたら止めます。
  最後は、140度で7分〜8分(or10分)焼きます。
  余熱でじっくり火を通してみるなど、温度調節は何度か実験してください。

【 仕上げ 】
  焼き上がったら、よーく熱を冷ましてオーブンシートからはずして下さい。
  冷めたらクリームを塗って蓋をしていきます。
  中に入れるクリームはお好みでいろいろ試してください。
  チョコでガナッシュを作ったり、
  サワークリーム、ジャム等、お好きなものをサンドしてください。

       参照 「COOKPAD」 http://cookpad.com/recipe/248152
               チャピコ先生の【失敗しない「マカロン」詳細レシピ!】

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